エピデミック:地域を越えた大規模伝染。更に国を越えて広がるとパンデミックとなる。
罹患した病を治癒するのは医学の役割、病原体を特定しその性質を明らかにするのはウィルス学の役割だが、感染の経路を明らかにし病の広がりを抑えるのは疫学の役割である。
これは、そんな疫学を中心に据えた物語だ。
疫学の基本は非常に単純で、発症した人としなかった人の特徴を比較し、何が感染のリスクを上げるかを突き止める。必ずしも病原体が判明する必要もなく、例えば世界初の疫学による伝染源の特定は1852年イギリスの第三次コレラ流行に於いて、空気感染と思われたコレラの発生が家単位でまとまることに着目、特定水源が汚染源であることを突き止めたもので、これはコレラ菌が発見される30年も前の話であった。
疫学の理論は常に状況証拠からの演繹である。罹患者に多く非罹患者には少ない特徴を洗い出し、その比率から危険性を算定する。ミステリに例えれば、被害者の特徴から犯人が狙う人物像を炙り出したり犯行地域から犯人の生活圏を割り出したりといった推理である。ただし疫学では犯人の特定そのものには焦点を当てず、むしろプロファイル的に「こういう人物との接触を避けるように」「この地域には近寄らないように」といった形で、以降の犯行を予防することに主眼が置かれる。
どうだろう、実にミステリ的ではないか。伝染病小説というとまず破滅的な謎の感染症による人類滅亡の恐怖めいたものが描かれる中、冷静に病を追い詰める捜査官と各々の立場が織り成す群像劇を主軸に社会派ミステリ的に描くのはなかなか新鮮だ。
折しも新型インフルエンザのパンデミック渦中、流行病に対する心構えと防疫に対する理解の意味でも、一読をお薦めしたい。
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エピデミック 単行本 – 2007/12/1
川端 裕人
(著)
- 本の長さ509ページ
- 言語日本語
- 出版社角川書店
- 発売日2007/12/1
- ISBN-104048738011
- ISBN-13978-4048738019
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登録情報
- 出版社 : 角川書店 (2007/12/1)
- 発売日 : 2007/12/1
- 言語 : 日本語
- 単行本 : 509ページ
- ISBN-10 : 4048738011
- ISBN-13 : 978-4048738019
- Amazon 売れ筋ランキング: - 1,266,338位本 (本の売れ筋ランキングを見る)
- - 318,448位文学・評論 (本)
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2008年1月20日に日本でレビュー済み
こんなに真っ黒なページの川端裕人を読むのは何作ぶりだろう。
もちろん文字数が少ないからといって中身が薄いというわけではないのだが。
しかしまあこの際、相変わらずネーミングセンスが悪いとか、
どの作品のヒロインも似たような性格だとか境遇だとかという設定には目を瞑ろう。
「疫学」という分野の専門用語をわかりやすく解説してくれる小説を書かせたら、
たぶんこのひとがいちばんだ。
ところがそのわかりやすさ故か、物語を複雑に絡ませたり
謎が謎を呼ぶような展開にするのは苦手のようだ。
読者はあまり振り回されることなく読了できてしまう。
面白いのに、そこが少し物足りなさを感じさせる。
国や政治家の薄汚い面ももっと書きこむことができたのに。
でも踏み込み過ぎないところが川端のいいところなのだろう。
そのおかげで『エピ』というテーマに絞りきれている。
最近の彼のブログで取り上げられたさまざまな話題や本が、この小説に集約されている。
彼の科学や自然に対する考え方がよく表れていると思う。
P.224の棋理のことばがこころに残っている。
「絶対なんてことは、ありえないんだ(中略)…きみは、まだまだ生きられる。
今はつらいかもしれないが、踏みとどまるんだ」
ひとは希望があるからこそ生きられる。
科学的な謎解きとともに何度も語られる「人間も生態系の一部」だということ、
そして「希望」がこの小説のテーマなのだと思う。
もちろん文字数が少ないからといって中身が薄いというわけではないのだが。
しかしまあこの際、相変わらずネーミングセンスが悪いとか、
どの作品のヒロインも似たような性格だとか境遇だとかという設定には目を瞑ろう。
「疫学」という分野の専門用語をわかりやすく解説してくれる小説を書かせたら、
たぶんこのひとがいちばんだ。
ところがそのわかりやすさ故か、物語を複雑に絡ませたり
謎が謎を呼ぶような展開にするのは苦手のようだ。
読者はあまり振り回されることなく読了できてしまう。
面白いのに、そこが少し物足りなさを感じさせる。
国や政治家の薄汚い面ももっと書きこむことができたのに。
でも踏み込み過ぎないところが川端のいいところなのだろう。
そのおかげで『エピ』というテーマに絞りきれている。
最近の彼のブログで取り上げられたさまざまな話題や本が、この小説に集約されている。
彼の科学や自然に対する考え方がよく表れていると思う。
P.224の棋理のことばがこころに残っている。
「絶対なんてことは、ありえないんだ(中略)…きみは、まだまだ生きられる。
今はつらいかもしれないが、踏みとどまるんだ」
ひとは希望があるからこそ生きられる。
科学的な謎解きとともに何度も語られる「人間も生態系の一部」だということ、
そして「希望」がこの小説のテーマなのだと思う。
2021年4月11日に日本でレビュー済み
アウトブレイク=集団発生、エピデミック=流行、パンデミック=世界的な大流行。
COVID-19パンデミック渦中で、エピデミックの小説を読む。
関東南部の半島にあるT市で、強烈な肺炎を引き起こす感染症が発生。感染症と戦うフィールド疫学者・医師たちの戦いを描く。
フィールド疫学:集団感染を制御すること。時間・場所・人を見ていく。(病原体)の元栓を探して締める。
wikiでは、
「疫学は、個人ではなく集団を対象として病気(疾病)の発生原因や流行状態、予防などを研究する学問。」
小説としては、ちょっと散漫な印象。だなぁ。
COVID-19パンデミック渦中で、エピデミックの小説を読む。
関東南部の半島にあるT市で、強烈な肺炎を引き起こす感染症が発生。感染症と戦うフィールド疫学者・医師たちの戦いを描く。
フィールド疫学:集団感染を制御すること。時間・場所・人を見ていく。(病原体)の元栓を探して締める。
wikiでは、
「疫学は、個人ではなく集団を対象として病気(疾病)の発生原因や流行状態、予防などを研究する学問。」
小説としては、ちょっと散漫な印象。だなぁ。
2007年12月29日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
生命と非生命の間を漂う”神を除き最強のもの”と人間の科学する心の激突!
まさに日本では稀有なサイエンスエンターテイメント小説!
『リスクテイカー』、『竜とわれらの時代』等に続く名作の誕生です。
信頼区間などの用語をインターネットで検索しながら、エクセルで2×2表を
作り、仮説の構築と棄却を追いつつ一気に読みました。
本作品は科学をツールとした「探偵もの」としても実に秀逸です。
こんな仕事は川端さんにしかできない、とつくづく思いました。
やはり川端さんには一年に一冊は科学教養小説を書いてもらいたい。
個人的には次回のテーマは、量子力学や核エネルギーでお願いしたいです。
まさに日本では稀有なサイエンスエンターテイメント小説!
『リスクテイカー』、『竜とわれらの時代』等に続く名作の誕生です。
信頼区間などの用語をインターネットで検索しながら、エクセルで2×2表を
作り、仮説の構築と棄却を追いつつ一気に読みました。
本作品は科学をツールとした「探偵もの」としても実に秀逸です。
こんな仕事は川端さんにしかできない、とつくづく思いました。
やはり川端さんには一年に一冊は科学教養小説を書いてもらいたい。
個人的には次回のテーマは、量子力学や核エネルギーでお願いしたいです。
2009年7月20日に日本でレビュー済み
いろいろな伏線が序盤から張られていて後半の展開を楽しみにページをめくりました。
しかし、読者が最初から感じる「これが原因だろう」という予測を外すわけでもなく、最後にそこにたどり着く展開でした。
伏線は消化不良な形で終了していますし、途中までの展開が期待させるものなので、終盤の展開に残念な感じです。
しかし、読者が最初から感じる「これが原因だろう」という予測を外すわけでもなく、最後にそこにたどり着く展開でした。
伏線は消化不良な形で終了していますし、途中までの展開が期待させるものなので、終盤の展開に残念な感じです。
2011年6月18日に日本でレビュー済み
私自身が疫学に興味があって、本書のプロットに使われているというので読んでみた。
ジェットコースター的に山あり谷ありといった劇的な展開を用いるでもなく、伏線から徐々に恐怖を盛り上げて手に汗を握りながら次のシーンで心拍数がピークに達するという書き方でもなく、地道に現象を観察し材料を集めていく「疫学」探偵といった描き方であった。
小説としてはそれなりに楽しめたが、結末へ至るまとめ方が前半〜中盤の丁寧な積み重ね方に対して多少雑な感じがしことと、個人的には疫学部分の描き方が少々不十分だったと思うので評価としては☆4にしたいと思う。
ジェットコースター的に山あり谷ありといった劇的な展開を用いるでもなく、伏線から徐々に恐怖を盛り上げて手に汗を握りながら次のシーンで心拍数がピークに達するという書き方でもなく、地道に現象を観察し材料を集めていく「疫学」探偵といった描き方であった。
小説としてはそれなりに楽しめたが、結末へ至るまとめ方が前半〜中盤の丁寧な積み重ね方に対して多少雑な感じがしことと、個人的には疫学部分の描き方が少々不十分だったと思うので評価としては☆4にしたいと思う。
2008年2月17日に日本でレビュー済み
一言、怖いです。今、新型インフルエンザやウィルスの流行が懸念されているだけにそういう事が実際にあったら…こういう事になってしまうのだろうというリアルさがあり読んでいて怖かったです。文中にちょっと難しい医学用語があったりしましたが、先が気になってサラリと読めるたかも!?ケイトの母としての愛情の深さをグッと来るものがあります。そして、病原体の元栓が、そこいらに居るものだけに恐怖感があるお話に仕上がっていると思います。サラリとした文体だったので分厚いけれどもサクサクです。